ウケるアプリのポイント①若者をターゲットとする ―最近の日本の若者とは? part.4

それでは、過去3回にわたって分析したような特性を持つ若者に対して、企業はどんなマーケティング施策(ウェブ上で)をとっているのかを見てみます。
その狙いや手法が、ウケるアプリ考案のヒントになるでしょう。

まずは、TOYOTA SOCIAL APP AWARD(トヨタ・ソーシャルアプリ・アウォード)のテーマとモロにかぶっているといえる「SNS上で展開された(アプリを活用した)キャンペーン」の事例として、以前も取り上げたホンダの「Ole!Ole!CR-Z」キャンペーンを見てみます。

概要はhttp://mixiap.com/ap/crz.htmlにある通りで、簡単に言うと

SNS上のニックネームのどこかに“CR-Z”といれて、話題性UPに貢献してね。抽選で1名にこのクルマあげちゃうよ!」

ということです。仕組みは簡単ですが、一ヵ月半で80万人以上が参加し、日本で最も成功したSNS上のキャンペーンの一つと言われています。


このキャンペーンを、僕が考える「TOYOTA SOCIAL APP AWARD(トヨタ・ソーシャルアプリ・アウォード)でウケるアプリの条件」に当てはめると・・・

①(最近いろいろなものから離れつつある)若者をターゲットにし、
②(可能な限り)後援企業のプラットフォーム上で動く/バッチリハマるかたちで

mixiで展開されているので、そもそもユーザーの大半が若者です。
また、クルマ以外の景品が土屋アンナのサイン入りグッズなどである点、クルマ好き以外でも気軽に参加できる点、マイミクとのつながりを活用している点なども、“若者向け”である証左だといえます。
また、アプリを上のアクションとしては、「サイコロを振るだけ」というシンプルさもウリです。

③人と人がコミュニケーションしながらクルマの楽しさを再発見し 

>ニックネームに「CR-Z」と入れさせることが、ユーザー間の「CR-Zってなに?」という疑問からはじまるコミュニケーションのトリガー(引き金)となる仕組みです。
しかし、「CR-Zというクルマの楽しさ」がダイレクトに伝わるかは、それこそ疑問です。例えば参加者がCR-Zの商品情報や、楽しさ・魅力(漠然としていますが)に何らかの形で触れるようなスキームがあれば、よりよかったのではないでしょうか。「エコなのにスポーツ志向」というこのクルマの最大の魅力とサイコロゲームの間に、あまり関連性はないでしょう。

ただ、「当選確率が上がる」というネギをぶら下げ、「マイミクを勧誘する」ことを促すという仕組みは大いに参考になります。コミュニケーションの種まきとしては、相当の効果があったでしょう。個人的には、この「参加者の増殖の仕組み」こそが、このキャンペーン/アプリから最も学んだ点です。


④リアルでの購買行動につながるような

>上記のとおり、このキャンペーンはここが弱い気がします。「誰か一人にクルマ1台プレゼント!」だけでなく、副賞として「企画に参加し、かつ実際にCR-Zを購入、さらにインプレッションをSNS上で書き込んだら3万円キャッシュバック!」などを用意したほうが、結果的に費用対効果の高いキャンペーンになった気もします。

⑤ビジネスモデルを兼ね備えた

>キャンペーンの主眼が話題性UPに置かれているので仕方ないともいえますが、これも弱いかもしれませんす。キャンペーンの効果が定量的にわかりづらい(参加者と購入者がひもづいていない)し、ホンダの“儲け”にダイレクトにつながる要因もありません(もちろん、こういったボクシングの”ジャブ”のようなキャンペーンでソーシャルアプリの効果を測定して、後々”アッパー”を打つ布石としているのは間違いなく、壮大なビジネスモデル構築の序章と言えなくもないですが)。

例えば、参加者が3人以上の友達をこのキャンペーンに勧誘したら用品クーポンや新車購入用クーポンをプレゼントして、そのクーポンの発行数と使用率を見るという仕組みを用意すれば、それは(かわいらしいですが)ビジネスモデルといえるし、定量的に効果測定もできるわけです。

もちろん、ホンダのキャンペーンは「アプリ」や「クルマ離れをしている若者に楽しんでもらう」ことを必ずしも主眼においているわけではないため、「TOYOTA SOCIAL APP AWARD(トヨタ・ソーシャルアプリ・アウォード)でウケるアプリのフレームワーク」に無理やり当てはめるのもどうかとは思いますが、いずれにせよアウォードに応募するに当たっては、このアイデアではちょっと弱い点もあるということがわかります。

皆さんも、イデアの妥当性やウケる度合いを推し量る際は、(一つの目安として)是非そのアイデアを「ウケるアプリのポイント」に当てはめてみてください(上の例のように、5つのポイントをそれぞれ高いレベルで満たしているかを検証するということです)。

重要な点なので繰り返しますが、「SNS上のつながりを刺激する仕組みを作ることで、アプリ利用者(キャンペーン応募者)の自己増殖を促した」ところが、「Ole!Ole!CR-Z」キャンペーンのキモです。
以前の記事で

”若者のためのソーシャルアプリの考案に当たっては、現代日本の若者のネガティブな側面よりも、幅広い趣味をもち、つながりを大切にするデジタルネイティブたる彼ら/彼女らの行動特性にこそ着目すべきでしょう。”

と述べましたが、ホンダはそれを見事にやってのけたのです。
その成功から学ぶ点はおおいにあります。



ちなみにホンダはCR-Zキャンペーンの前にもmixi上で「当たれ!Hondaマイミくじ」キャンペーンを行っています(http://mixiap.com/ap/maimikuji.html)が、このアプリの凄さは、ごくわずかなコスト(景品のお取り寄せグルメと、くじ引きアプリのみ)で、ユーザーの情報を得て、さらにインサイトというクルマのメルマガ購読をさせた点にあります。
・・・しかし、このアプリも、自動車メーカーがSNSを通して「クルマの楽しさを伝えようとした取り組み」とはいえません。


話が逸れますが、穿った見方をすると、トヨタTOYOTA SOCIAL APP AWARD(トヨタ・ソーシャルアプリ・アウォード)を開催する理由の一つに、ホンダというライバルメーカーの先進的な取り組み(ホンダはmixiでのプロモーションに最も成功している企業といわれます)に触発されたことがあると思います。

ちなみに、業界の圧倒的リーダーたるトヨタが2位以下の競合の施策と同じような手を打ち、それを豊富なリソース(ヒト、モノ、カネ、情報)をつかって凌駕しようとするのは、コトラーの言うところの典型的な「リーダーの戦略」といえます。

サニーに対するカローラ、エルグランドに対するアルファード、3シリーズに対するマークXなどなど(異論はオオイに認めます)、商品に関してもトヨタは同質化を狙う(というより、後出しでコストパフォーマンスに優れたクルマを出し、結果として競合を蹴散らす))ことが多いと言われますね。

これは卑怯でもなんでもなく、かつての松下がマネシタと揶揄されたように、マーケティングの定石なわけです。
「学ぶ」は「マネぶ」です。我々も成功例からたくさん学び、マネびましょう。



・・・今回でポイント①は完結の予定でしたが、長くなったのであと1回。
次回は他業界のマーケティング事例(SNSやソーシャルアプリを活用したもの)を見てみます。